コロナウイルスと中国美術オークションの話


『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。』

平家物語はこの大名文より語り始められる。

『諸行無常』は仏教用語で、

諸行とは、因縁によって起こる全ての事柄を指し、

無常とは、一切は常に変化し、普遍という物は無いという意味だ。


昨今の国会中継を見てみると、

野党の追求の中心は『桜を見る会』に関連したものばかりだ。

桜を見る会はまさに安倍総理の長期政権よるこの世の春を象徴している。

『平家でなければ、人にあらず。』

平家全盛の時代、朝廷の役職全てが平家の親密な者で固められ、

全てが平家の意のままにできた。

書類の隠蔽や破棄、都合の良い様に現政権もやり放題である。


『盛者必衰の理をあらはす。』

こんなに栄華を極めた平家も、源氏に討たれるまで20年しか持たなかった。

平家物語は、絶えず一切は変化し、必ず終わりが来ることを語っている。

諸行無常。盛者必衰。がこの物語のキーワードだ。

平家物語の作者は未だ断定されていない。源平合戦で死んだ侍たちの

鎮魂として口伝で琵琶法師たちに語り継がれてきた。


先日も中国武漢で発生したコロナウイルスが、世界の一大事なのにも

かかわらず野党は桜を見る会の追求の手を緩めなかった。

現代野党の中に、義経や弁慶の役を務まる者は無く、

安倍総理の栄華はしばらく続きそうである。


代わりにコロナウイルスにより盛者必衰してしまいそうなのが、

中国であり中国美術で潤っていた衆である。

2月の日本で開催される予定だった中国オークションは軒並み中止や延期が発表された。

ブランド業界では、高級時計やブランドバックなどが暴落を始めたらしい。

損切りの速さも中国人美術バイヤーの特徴だ。

昨日まで買っていた物を、一切買わなくなる。

コロナウイルスショックは、これまで中国美術で潤っていた衆には、

甚大なインパクトを与えるだろう。











『象牙根付にマジックで書き込みだと!?』骨董品修復の話



今月17日、このニュースがテレビから流れた時、

美術品、骨董品を扱う私は、怒りを通り越し、虚しさを感じてしまった。


熊本県天草市の天草ロザリオ館(天草市)と本渡歴史民族資料館(今釜新町)

に預けられている寄託資料180点に直接、油性マジックで

管理番号を書き込みした事が明るみになったのだ。

そのコレクションの中には、『隠れキリシタン遺物』と呼ばれる、江戸幕末期のマリア像や

キリシタン大名、天草四郎に関係する大変珍しく、高価な商品が相当含まれていると推測する。




象牙の根付は、今や大手オークション会社や大手ネットサイトでは、

ワシントン条約や種の保存法などWWF等の自然環境保護団体関係の

偏った圧力の為、出品禁止など対応がなされ、悲しい状況ではあるが、

本来は大変芸術性が高く、海外でも大人気の日本の芸術作品の一つだ。

根付師という専門職があり、有名根付師の作品などは、1000万円以上で取引されている。

さらに根付に、『隠れキリシタン遺物』といったレアアイテムの条件が付随すると

価格はさらに跳ね上がるのである。

画像は無残に油性マジックで番号が書き込まれた象牙の根付である。




和楽器の象牙製品にもマジックで書き込みがある製品をよく見かける。

発表会で団体で演奏するために会場に持ってゆき、取り違えないようにする為ではあるが、

出来ればやめていただきたい。

象牙の撥や琴柱に油性マジックで名前を書き込むと、売却時に値段が落ちる。

蒔絵で書かれた名前などは綺麗に削り取れるが、油性マジックは専門の溶剤で汚れを落とすように消す。

しかし油性マジックを落としても、象牙本体に跡が残ってしまい、象牙製品本体も削らなければならなくなり、

サイズが小さくなり、バランスが悪くなる場合もある。

一番始末がが悪いのは、名前を彫り込んでしまう事です。こればかりはお手上げだ。

削り取る範囲が多すぎて、バランスを保てない。

画像の象牙根付などは骨董品なので、古色を残さなくてはならない。

油性マジックの成分が、象牙本体に影響を与える前に早急に溶剤で消し去る必要がある。

最悪、『84』の文字が跡になって残ってしまう可能性がある。




現代まで、美術品や骨董品が残っているのは、その商品を大切に保管してきた

コレクターや古美術商、専門業者たちの努力が必ずある。

保管する為の桐箱をあつらえ、必要に応じて補修もおこなう。

桐箱は全てオーダーメード。その商品に合わせて、指物師が美しい仕事をする。

補修においても、それぞれの専門業者が存在し、何代にもわたり、試行錯誤しながら

受け継いだ、一子相伝の技術がある。失敗の許されない真剣勝負の仕事である。




その昔、北大路魯山人がピカソに自身の陶器をプレゼントしたときの逸話がある。

ピカソは魯山人が持参した陶器の入った桐箱を撫でるように触り、『素晴らしい』と感動した。

それを見た魯山人が『間抜け!作品は箱の中だ!』と一喝する。(魯山人はいつも口が悪い)

ピカソは桐箱の指物師の仕事も素晴らしいと感じたのだろう。

しかも魯山人のお眼鏡にかなう指物師の真剣勝負の仕事である。

実際、魯山人の器の桐箱は、素晴らしいのでる。




今回の『油性マジック書き込み事件』の中には桐箱に直接、油性マジックで

書き込みも多数あった。全て市の職員の仕業だという。

親方日の丸のバカのお役所仕事の典型だ。

商品の買取費用、補修費用など、身銭を切ることがないので、

作品に対する情熱や興味に欠ける。

その商品の裏方を支える職人たちの真剣勝負の仕事も感じないだろう。

まさか学芸員はやらないし、そんな指導もしないだろう。

学芸員がいて、指導してこれだったら、目も当てられない。


天災と美術骨董品の話


先月末に起きた台風19号によって各地に甚大な被害があった。

被災された方に、心からお見舞い申し上げる。

台風19号から、そろそろ1ヶ月が経とうとしているが、

未だに復旧の目処が立たない状態が続いている。

倒壊した千葉のゴルフ練習場では、やっと民家にめり込んでいた鉄柱を取り除き始めた。




台風19号は、気象庁などから、早めに警告がなされ、

ある程度予測が立てられた台風だった。

日本の観測衛星は優秀、正確で、気象庁発表やテレビ、マスコミなどで早めに

『過去に例を見ない規模の台風』『命を守る行動を』と

アナウンスされ、台風当日は、鉄道の運休や会社の休業など皆、台風に備えるだけの、

時間もたくさんあった。




それでも、台風当日に荒れ狂う川を見に行って流されたり、

車で移動して水没し立ち往生したりする迷惑者が後を絶たないのは何故か?

九死に一生を得て生還した人の話を聞くと、命を懸けてまでその行動をする理由は1ミリも無い。

その無謀な行動のおかげで、警察や消防、自衛隊の方々が命懸けで救助に当たらなければならない。

そのことに当の本人(迷惑者)は気付いていないのだろう。

自然を舐めた行動の報いには、命を失う可能性が高いのだ。




台風19号の中、美術骨董業界はどうであったか?

当社においては、商品の垂直避難を実行し高価な品は2階に避難させた。

所詮人類は自然には敵わないまでも出来る事をやり、

あとは、人事を尽くして天命を待つといったところであった。

今回の台風では、人事を尽くす時間は十分にあった。

それからは天気専門のネットチャンネルを見ながら、付近の情報収集をしていた。




そんな中、あるニュースが飛び込んできた。

川崎市民ミュージアムが被災したという。

それも、地下収蔵庫が浸水し、所蔵品を水没させたという事だった。

今回の画像は浸水して、水が引いた後の地下収蔵庫内(市提供)

そもそも、あんな川っぺりにある美術館で、地下で収蔵品を管理し、

台風が来る情報を得ていながら、なんの対策も取っていなかったのに愕然とした。




川崎市民ミュージアムは川崎市が事業主体者で、運営を管理会社に委託している。

収蔵品も委託、寄付などが多いようだ。

お役所仕事の中には収蔵品を地下室から2階へ避難させるといった、仕事は含まれていないようだ。

さらに川崎市民ミュージアムは、被災した収蔵品修復費を寄付により賄おうとしている。

とことん身銭を切らない、お役所仕事である。




2011年東日本大震災の時、東北の人々は、津波が迫ってくる中、

伝来の骨董品や家宝、受け継がれた道具類などを持って高台へと逃げた。

当時、宅配買取で被災地から続々と商品が届いた。

送り先の宛名を見ると、〇〇避難所や〇〇体育館などが多かった。

受け継いできた物を未来に繋ぐ為の命を懸けた行動をしたのだ。




美術骨董業界にいると、公立、国立美術館の学芸員たちの

信じられない粗相が漏れ伝わってくる。

身銭を切って無いので作品に対する情熱や意識が希薄なのだろう。

作品をお釈迦にするのは、確実に人災の場合が多い。




学芸員になることが人生のゴールで、のほほんと職務についている方々よ、

今、目の前にある作品は、戦争や火災や天災を越えて今そこに存在している。

もしかすると誰かが命を懸けたおかげで、

現在まで存在している作品であることを忘れないで欲しい。


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