『象牙根付にマジックで書き込みだと!?』骨董品修復の話
今月17日、このニュースがテレビから流れた時、
美術品、骨董品を扱う私は、怒りを通り越し、虚しさを感じてしまった。
熊本県天草市の天草ロザリオ館(天草市)と本渡歴史民族資料館(今釜新町)
に預けられている寄託資料180点に直接、油性マジックで
管理番号を書き込みした事が明るみになったのだ。
そのコレクションの中には、『隠れキリシタン遺物』と呼ばれる、江戸幕末期のマリア像や
キリシタン大名、天草四郎に関係する大変珍しく、高価な商品が相当含まれていると推測する。
象牙の根付は、今や大手オークション会社や大手ネットサイトでは、
ワシントン条約や種の保存法などWWF等の自然環境保護団体関係の
偏った圧力の為、出品禁止など対応がなされ、悲しい状況ではあるが、
本来は大変芸術性が高く、海外でも大人気の日本の芸術作品の一つだ。
根付師という専門職があり、有名根付師の作品などは、1000万円以上で取引されている。
さらに根付に、『隠れキリシタン遺物』といったレアアイテムの条件が付随すると
価格はさらに跳ね上がるのである。
画像は無残に油性マジックで番号が書き込まれた象牙の根付である。
和楽器の象牙製品にもマジックで書き込みがある製品をよく見かける。
発表会で団体で演奏するために会場に持ってゆき、取り違えないようにする為ではあるが、
出来ればやめていただきたい。
象牙の撥や琴柱に油性マジックで名前を書き込むと、売却時に値段が落ちる。
蒔絵で書かれた名前などは綺麗に削り取れるが、油性マジックは専門の溶剤で汚れを落とすように消す。
しかし油性マジックを落としても、象牙本体に跡が残ってしまい、象牙製品本体も削らなければならなくなり、
サイズが小さくなり、バランスが悪くなる場合もある。
一番始末がが悪いのは、名前を彫り込んでしまう事です。こればかりはお手上げだ。
削り取る範囲が多すぎて、バランスを保てない。
画像の象牙根付などは骨董品なので、古色を残さなくてはならない。
油性マジックの成分が、象牙本体に影響を与える前に早急に溶剤で消し去る必要がある。
最悪、『84』の文字が跡になって残ってしまう可能性がある。
現代まで、美術品や骨董品が残っているのは、その商品を大切に保管してきた
コレクターや古美術商、専門業者たちの努力が必ずある。
保管する為の桐箱をあつらえ、必要に応じて補修もおこなう。
桐箱は全てオーダーメード。その商品に合わせて、指物師が美しい仕事をする。
補修においても、それぞれの専門業者が存在し、何代にもわたり、試行錯誤しながら
受け継いだ、一子相伝の技術がある。失敗の許されない真剣勝負の仕事である。
その昔、北大路魯山人がピカソに自身の陶器をプレゼントしたときの逸話がある。
ピカソは魯山人が持参した陶器の入った桐箱を撫でるように触り、『素晴らしい』と感動した。
それを見た魯山人が『間抜け!作品は箱の中だ!』と一喝する。(魯山人はいつも口が悪い)
ピカソは桐箱の指物師の仕事も素晴らしいと感じたのだろう。
しかも魯山人のお眼鏡にかなう指物師の真剣勝負の仕事である。
実際、魯山人の器の桐箱は、素晴らしいのでる。
今回の『油性マジック書き込み事件』の中には桐箱に直接、油性マジックで
書き込みも多数あった。全て市の職員の仕業だという。
親方日の丸のバカのお役所仕事の典型だ。
商品の買取費用、補修費用など、身銭を切ることがないので、
作品に対する情熱や興味に欠ける。
その商品の裏方を支える職人たちの真剣勝負の仕事も感じないだろう。
まさか学芸員はやらないし、そんな指導もしないだろう。
学芸員がいて、指導してこれだったら、目も当てられない。